「落ち着いて仕事がしたい。」
そうつぶやいて、息子さんは帰って行かれました。
これまでは、時々実家に顔を出し、元気そうなご両親を見る。それが当たり前の日常だったのだと思います。
ところがある日、その日常は突然変わりました。
お母様を介護していたお父様が倒れ、入院。そのまま施設へ入所されることになりました。
残されたお母様は一人暮らし。そして息子さんは、突然「介護者」になったのです。
一緒に生活するようになると見えてくる現実がありました。
何でもできていたはずのお母様は認知症が進み、デイサービスからは「紙パンツを購入してください」と連絡があります。
食事の準備、洗濯、お風呂、通院、見守り・・・。
仕事をしながら気にかけることは次々と増え、「どうにかならないか」と話されるほどでした。
それでも、お母様と過ごす時間が増えるにつれ、生活の様子や困りごとが少しずつわかるようになってこられました。
そんな中、息子さんが「冬は暖房器具を使うから、その時だけ施設に入った方がいいかな。」
私は、認知症がある方は施設に入所すると、在宅復帰のハードルが高くなることをお伝えしました。
冬だけ時間が止めるわけではありません。
認知症は、日々の暮らしの中で少しずつ変化していきます。
「ちょっと考えてみるわ。」
そう話される息子さんの表情には、お母様の変化を受け止めながらも、どこか寂しさがにじんでいました。
その姿を見るたびに、ケアマネジャーとして胸が痛くなります。
介護では、「どこで過ごすか」が注目されがちです。
けれど、本当に大切なのは「どう過ごすか」。
そして、介護を続けるためには、介護者自身の生活や仕事を守ることも同じくらい大切です。
介護者が安心して暮らせる環境は、ご本人の安心にもつながります。
仕事を続けながら介護をする方が増えている今だからこそ、介護者自身を一番に考える選択をしてほしい。
それは決して「親より自分を優先する」と言うことではなく、親子が穏やかに暮らし続けるための、大切な一歩なのだと思います。

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