私が支援している地域では、冬になると積雪があります。
道路が凍結し、歩いて外に出ることも難しくなります。
高齢の方にとって、雪道を歩くことは転倒の危険もあります。
また、自宅では石油ストーブなどの暖房器具を使っている方も多く、火の管理が心配になることもあります。
そのため、
「冬の間は施設で過ごして、雪が解けて、春になったら自宅へ帰る」
という生活を選択される方があります。
特に、一人暮らしの方や認知症のある方では、冬の間だけ施設を利用するケースも少なくありません。
「春になったら、また家に帰ればいい」
ご家族から、こんな話を聞くことがあります。
「施設にいる間はリハビリをしているから」
「職員さんが見守ってくれているから」
「春になれば、また前のように家で暮らせると思います」
ご家族にとっては、それが自然な考えなのだと思います。
施設に入る前の本人の姿を思い浮かべながら、
「数ヶ月施設で過ごして、また元の生活に戻る」
そんなイメージを持っておられるのです。
けれど、数ヶ月という時間は、決して短くありません。
施設にいる間も、本人の時間は進んでいます。
施設での生活にも、本人の「日常」ができていく
施設では、生活の中にいろいろな支援があります。
食事の時間が決まっていて、必要な時には声をかけてもらえる。
分からないことがあれば、職員に尋ねることができる。
できないことがあれば、誰かが手を貸してくれる。
転倒しないように見守ってもらえる。
リハビリを受けることもできる。
同世代の人と会話もできる。
もちろん、施設でも自立支援のための働きかけは行われています。
「自分でできることは、自分でしてもらう」
それは大切なことです。
でも、施設での生活は、一人で暮らす生活とは違います。
忘れてしまっても、誰かが気づいてくれる。
分からなくなっても、誰かが教えてくれる。
困っても、助けてくれる人がいる。
そうした環境で数ヶ月過ごせば、本人にとって施設での生活もまた「日常」になっていきます。
家に帰ったら、入所前の姿に戻るわけではない
ここを、ご家族と一緒に考えておく必要があります。
施設を退所したからといって、時間が巻き戻るわけではありません。
入所前にできていたことが、同じようにできるとは限りません。
認知症が進行しているかもしれません。
体力が落ちているかもしれません。
以前は一人でできていたことに、誰かの声かけが必要になっているかもしれません。
そして何より、
「誰かがいてくれる生活」に慣れた本人が、再び一人で暮らすことに戸惑うことがあります。
ご家族は、本人が施設にいる間に「元気になって帰ってくる」と思っていた。
ところが、家に帰ってきた本人を見て、
「どうしてできなくなったの?」
「施設でリハビリをしていたんでしょう?」
「前は自分でできていたのに」
と、以前の姿に戻そうと必死になってしまう。
それは、ご家族が本人を思っているからこその行動です。
でも、本人にとっては、それまで数ヶ月過ごしてきた施設での生活も、今の自分の日常なのです。
「春になったら家に帰る」
一方で、こんな方もおられます。
「雪が解けたら家に帰る」
「春になったら畑を見に行く」
「また家で暮らすんだ」
本人自身が、そんな目標を持って施設で生活しているのです。
そういう方は、実際に自宅へ戻ると、数日ほどで以前の日常を取り戻していくことがあります。
家の中の動線。
いつもの椅子。台所。
新聞を読む場所。
近所との関わり。長年続けてきた習慣。
住み慣れた場所には、本人が積み重ねてきた「生活の記憶」があります。
もちろん、誰もが同じように戻れるわけではありません。
心身の状態によって、その後の生活は大きく変わります。
だからこそ、
「施設に入ったから元気になる」
という単純な話ではないのだと思います。
時の流れは止まらない
施設にいる本人にも、ご家族にも、時間は流れています。
冬の間、本人が施設で過ごしている数ヶ月も、
家族が自宅で暮らしている数ヶ月も、
その間に、身体も変わります。
認知機能も変化します。
生活習慣も変わります。
そして、家族の生活も変わります。
だから、春の退所を考えるときは、
「入所前の本人に戻ってきてもらう」
のではなく、
「今の本人と、今の家の環境で、どんな暮らしならできるのか」
を一緒に考えることが大切なのだと思います。
時の流れは止まりません。
誰にでも同じように流れているのです。

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